チルドノート

短編小説やグーグル先生に叱られたコンテンツを保管しています。

2015-08-06から1日間の記事一覧

遺産

黒いスーツの男の人が浜辺を歩いていたんだ。オレンジ色ににじむ海から風がひゅうと吹きつけていた。入り江には船を吊り上げる錆びたクレーンが大きな影を伸ばしている。男の人はスマートフォンを取りだして水平線にカメラを向けたけどすぐにポケットに戻し…

ハロウィン

「ね、美咲、ジャックランタン作ってよ」千夏が美咲に言った。「ジャックランタン?」美咲は始めて聞く単語に戸惑いながら聞き返した。「そう。カボチャくり抜くの」千夏が言った。「わかんないよ」「一色に作り方、聞いてみようか?」千夏は後の席に座って…

恋のシュラフ

「気持ちはありがたいけど必要ないんだ。悪いけど持って帰って」ワンルームの窮屈な玄関で、プレゼントを抱えたサオリに、桐生は冷たく言い放った。「なんで?このまえ欲しいって言ってたのに…」「たしかにそう言ったけど、あれから事情が変わったんだ」「わ…

お花見

「桐生くん、これ上げてくれる?」桜子は厨房でふき掃除をしている桐生に声をかけた。桐生は振り返って桜子が抱えた大皿を受け取ると棚の上に持ち上げた。「ありがとう。桐生くん背が高いから助かるわ」桜子は笑顔で礼を言うと手の甲で額の汗を拭った。閉店…

ワーキングプア

空はどんよりと重く、肌を切るように冷たい風に雪が舞っていた。かじかむ手を丸めて息を吹きかけ、スクーターのエンジンをかける。こんな日に働きに出なければならないとは。桐生の気持ちは重く沈んでいた。アフィリエイトで生きていく。そう決意して会社を…

セブンスター

沙織はビルの非常階段を、慎重な足どりで一歩ずつ登っていた。ときおり吹くビル風には、歌舞伎町のにおいがした。「桐生くん、またタバコ吸ってるの?」沙織はビルの屋上にたどりつくと、タバコをふかしている男に声をかけた。「タバコは体にわるいよ」「知…

リンゴナルド

長かった。まる一ヶ月、うんざりした気分で仕事をしていた。先月半ばには、仕事を辞める旨を、会社に伝えたが、人員の確保もあるから、最低でも来月いっぱいまで居てくれと言われた。桐生は、苦痛だった。仲が良いと思っていた職場の連中も、もう辞める人だ…