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チルドノート

短編小説やグーグル先生に叱られたコンテンツを保管しています。

バスケットボールの思い出


僕も、キミ達くらいの頃は、いつだって予定があったな。

予定といえるほどフォーマルじゃなくても、今度の休みはどこに遊びに行こうか、みたいな気楽なものだけどね。

それが、いつの頃からか、今年の売れ行きだとか、お盆は実家に顔出さなきゃいけないだとか、足下ばっかり見て、背中丸めて生きるようになっちまった。気がつけば夏なんかあっという間に過ぎて、右往左往してるうちに一年も消えちまう。

近頃、奥歯が痛むんだ。上から2番目のいたずらっ子がね。昔は虫歯なんて一本もなかった。年とると唾液の分泌が減って虫歯になりやすくなるんだってね。僕がキミにできる唯一のアドバイスは、歯が痛んだら我慢するまえに歯医者に行くってことだな。

なんの話だったっけ?

ああ、夏の予定か。キミはホントに良い子だな。ウチの会議で今みたいにボンヤリしてたら、あからさまに嫌な顔されちまう。キミはそうゆうイヤなところが全然ない。人を見下すような卑しさが無い。キミだけだ。僕の話をマトモに聞いてくれるのは、本当にキミだけなんだよ。

僕が中学のころバスケやってたって話し、したことあったっけ?

聞いたことあったら、絶対に言ってくれよ。僕は同じ話をくりかえすのはごめんなんだ。仕事で同じ話を何度も聞くのに本当にウンザリしてるからね。ウチの社長は「ネコの首に鈴をつけるか」って童話を、もう100回くらいしてる。あんな人間には絶対になりたくないんだ。

そうそう、バスケだ。

キミはホントに聞き上手だな。やっ ぱり、東京にオフィス持ってる会社の社員はデキがちがう。もう、僕のお嫁さんになってくれないか?

え? お客様と深い関係になっちゃいけないって?

キミは人間として真の優しさをもっている。気遣いの女神だ。キミには不思議となんでも話してしまう。ふだん、みんなに無視されてるから、話を聞いてもらえるってだけで有頂天になっちまうのかな。

キミが僕の話しを聞いてくれるってだけで、もうすべてが満たされてるんだ。乾いた心に雨が降り注ぐようにね。

いい加減にしなくちゃね。

僕は調子に乗るのが悪いクセなんだ。だから友達もできない。頭が悪いから誰にも相手にされない。だけど僕は泣かないよ。行き場なんてどこにもないんだ。誰にも届かず途方に暮れる涙なんてキミも見たくないだろ。


そろそろ、話してもいいかな。ここからがスタートなんだ。ここまでは落書きみたいなもんさ。読み飛ばしてもらってもよかった。時間の浪費も甚だしいイントロダクションさ。

さあ、始めようか。

残念ながら未来じゃなくて過去の話なんだ。僕には語るべき予定なんて無いんだ。予定がない人にクリスマスの予定を聞いたりしないだろ? ひとは未来に絶望すると過去に探しに行くんだ。わずかな光を求めて、亡霊みたいに過去を這いずり回るんだよ。



僕は中学のときバスケ部に入っていたんだよ。ユウレイ部員でした、なんてオチじゃなくてさ。笑い話にもならなくてね。幽霊になることなんて許されなかった。もう、日常的に体罰の連続だったからね。

今なら大問題だろうけど、当時はあれが普通だったな。口の中切るくらいならまだマシで、運の悪いヤツは耳の鼓膜が破れちゃったりね。ちょっとダサい話しになっちまうから、体罰は忘れよう。

そう。そんなことは無かった。

キミだから話すけど、僕たちは最後の夏、全国大会のキップをゲットしたんだ。九州からは三校しか入れない狭き門だったから、奇跡みたいだった。これがどれだけ奇跡かわかるかな。例えるなら甲子園にいくイメージだ。

でも、これは、僕にとって自慢でも誇りでもなんでも無い。なんせ三年間ベンチに座って、もう辞めてぇな、はやく終わんねぇかなって、ずっと思ってたんだからさ。おかしいよね。そんなヤツがいるチームが全国に行けるなんてね。

バスケってのは、5人でできるスポーツだから、スタメンが良ければなんとかなるんだよ。中学生くらいなら、5人うまいやつがいればなんとかなる。今風に言えば個のチカラかな。スタメンの5人が抜群に巧かったんだ。

だから、僕は、バスに乗って会場にいって、ボールを拾ったり、磨いたり、試合を観戦していたら、あれよあれよという間に、全国大会まで行っちまった。みんなスゲーんだ。沖縄の連中なんかアリウープとかやってくる。それが僕より年下なんだから、テンションあがりまくりでね。

まぁ、静かに見とけばよかったんだけど、ガキだった僕は、やっぱり、はしゃいじまってね。案の定、監督からキツイ仕置をくらった。

他県の監督が目を丸くして見てたな。子供を引き倒してる絵ってのは、都会じゃなかなかお目にかかれないシュールコントだからね。これぞアップカントリーショウってなモンさ。

あれは、九州大会の最終戦だったかな。トーナメントかリーグ戦なのかどうか忘れちまったけど、もう全国大会に出場する 3 チームが 、決まっちまったあとだ。消化試合ってやつだ。相手は長崎県代表のチーム。

もう後半のこり 4 〜 5 分だったな。

監督が急に僕の名前を呼びやがったんだ。ゲームをボンヤリ観戦してたら僕をコールしやがった。こっちはユニホーム着てる観客だぞとか、考える余裕も無いうちに、コートインしちまったね。

なんか足元がふわふわして、雲の上を歩いてる感じだったね。まさか僕が試合に出るとはね。そりゃあもう、夢中で駆けずり回ったさ。これ、練習じゃなくて公式戦なんだ。消化試合だけどって。

そこで僕はちょっと冷静になった。

無闇に走って疲れたってのもあるけど、周りを見る余裕ができたんだ。公式戦ってコトは、記録されてる。公式だから。僕のチカラじゃ絶対に立てなかったステージに、僕は立ってる。これは現実なんだと。

つまり、得点すれば公式スコアブックに記録が残る。僕が、この僕が、この大舞台で得点したら、その足跡をスコアに刻めるんだ。

震えたね。

そしたら僕は、バスケをやってて、生まれて初めて思ったんだよ。点をとりてぇと。シュートを決めたい と。得点が欲しいと心底思えたんだよ。

時計を見たら、あと1分くらいしか時間がないのよ。ヤバイ。時間ない。はやくしないと、終わっちゃう。始めてボールを要求したよ。ヘイ!オレに回せ!ボールをこっちによこせっ!ってね。

ところがスタメンの連中は回さないのよ。なんか様子が変だってことを肌で感じたんだろうね。一瞬だけ、こっちを見るんだけど、他所にボールを回しやがる。何やってんだ!時間がないんだよ!って思っても、カラ回りするばっかり。また他のヤツにボール渡しちゃう。

でも僕は諦めなかった。

生まれて初めて諦めなかったんじゃないかな。そしてとうとうボールが回ってきた。幼なじみがボールを僕にくれたんだ。アイツは小学校からのダチだったから、僕の気持ちを分かってくれたんだと思う。

アイツ、笑ってたんだよ。ボールをすごい近くで、優しく手渡してくれたんだ。責任はとってやる。とにかく全力でぶつかってみろ。みたいな、古き良き時代の経営者って感じだった。アイツの親父は建設会社の社長だったからね。器のデカさが違った。

でもアイツは、会社は継がずにサラリーマンになった。気立てのいい嫁さんをもらって、可愛い双子のお父さんになったよ。アイツは幸せになる権利があった。

もうラスト1分を切ってたんじゃないかな。ボールを持ったときは、もうリングしか見てなかった。センターラインあたりだった。めいっぱい投げたよ。オーバースローで投げた。もちろんパスじゃなくてシュート。

あれは美しい放物線だったな。きらめく照明のセンターコートに、僕の放ったシュートが、リングめがけて飛んでいったんだ。 3 年間、毎日やってたシュート練習ってなんだったんだろうね。最後のシュートがオーバースローなんてね。


誰が書いた筋書きなんだろうって。


その後は、もう僕の出番はなかった。全国大会も一回戦で敗退しちゃって、ちょっと残念だったな。

みんな九州大会が終わった時に燃え尽きたね、モチベーションがなくなってしまったんだ。理由はやっぱり、自分たちが全国を目指してたワケじゃないからかもね。

スポーツ全般に言えることだけど、監督がいくら考えてもダメなんだよ。プレーヤー自身が目標を持ってやらないと、見失っちゃうんだ。何かを。

でも、僕はやり切ったよ。結局のところ、やり切るにはエゴイストにならなきゃいけないんだ。人生もおなじさ。誰のものでもない、キミだけの物語なんだよ。


え? あのシュートはどうなったんだって?


ハズレたよ。リングにカスリもしなかったな。それどころか、バックボードをはるかに超えて、体育館の2階席に飛び込んだよ。

あのとき会場にひびいた、歓声と失笑を想像できるかな。まるで僕の人生の縮図みたいだった。

キミにだってきっとできるよ。

大切なのは、失敗を恐れないことだ。笑われたっていい。よっしゃ、やり切ったって、自分が思えれば、それでいいんだよ。

僕たちの可能性は、いつだって無限なんだ。